「やる気が起きる」ためには、基本的な気血精の充足が必要だ。若くして「腎虚(じんきょ)」に陥り「腎精不足」になれば「青白くひ弱な性欲」はあるものの、「やる気」すら起こらない。気血の充足には「気は血の帥(すい)、血は気の母」といわれるように補気養血薬が必要である。人参 黄耆 冬虫夏草などは補気薬の代表であり、いまさら説明も要らないだろう。当帰 熟地黄 何首烏などは養血薬の代表である。
何故、この種のEDを自律神経の異常として取り上げるかというと、最終的にペニスの充血を起こす陰頚動脈の拡張はつまるところ神経支配であるからだ。
■中国秘方中の特殊な補腎精の薬剤
本稿では基本的な「腎精の充足」の一部にスポットをあててみたい。
●覆盆子(ふくぼんし) 帰経: 肝 腎 益腎固精 固精縮尿 益肝明目 ED 早漏に特に効果がある。夜間頻尿や尿失禁にも効果がある。老年性視力減退にも効果がある。 中国産はゴショウイチゴの完熟直前の実を乾燥させて用いる。味は甘酸っぱく「酸甘化陰」の理論に一致し、陰液を増やすことにもなり精液の量も多くする。
●おう粟穀(おうぞくかく:中国名インスーカ) 帰経: 肺 大腸 腎 芥子(けし)の実の外側の殻の部分である。芥子の実からはアヘンが採取される。中国では古来より咳止め、下痢止め、鎮痛の目的で広く使用されてきた。中国では罂粟穀そのものは医師の処方箋扱いになっているが、麻薬免許を所持している漢方医だけでなく広く処方されている。腎気を固め精液が漏れるのを防ぐために、早漏を伴うEDに使用される。日本では使いこなせる漢方医は殆どいない。
●陽起石(ようきせき)帰経: 腎 温腎壮陽 アクチノライトと呼ばれる珪酸カルシウム、マグネシウム、鉄塩が主成分の鉱石である。腎陽不足の陰部が寒々としたEDに効果がある。通常は粉末製剤を他剤と共に頓服する。子宮の冷えにも効果があり、古くから宮廷女子が服用した。
●菟丝 子(としし) 帰経: 肝 腎 脾 ネナシカズラの成熟種子で、辛 甘 微温(清書によっては平性)である。 腎虚のED 早漏に効果がある。また尿に精液が混じる精液尿や、夜間頻尿、尿失禁にも奏効が認められる。
補肝腎作用は安胎(あんたい)作用につながり、古来より胎動不安がある流産の防止薬としても有名。補肝腎薬の中で補骨脂(ほこつし)仙茅(せんぼう)と共に止瀉(ししゃ: 下痢を止める)作用があることでも特徴であり、腎虚、胃腸虚弱による下痢などに奏効する。古来より「燥にも腻 にも偏らず、補陽すると同時に益精に働く良薬」とされる。また養肝明目に働きエイジング(老化)による目のかすみに効果がある。 |