10年前なら皆無だったはずの不妊治療を望む60歳過ぎの高齢男性。ここ5、6年で受診する人が現れるようになってきたというから驚きだ。
「男性不妊外来を受診する人の内、いまでは60歳以上が年間2、3人はいる」と話すのは、獨協医科大学越谷病院?泌尿器科の岡田弘教授。その背景をこう説明する。
「ひとつは顕微授精など生殖医療の技術の進歩。それから結婚しない男性が増えたこと。60代で初婚の人もいて、結婚すると可能であれば子供が欲しくなる」
多くの統計によると60代男性の半数は軽度以上のED(勃起障害)といわれる。が、高齢で男性不妊外来を訪れるような人たちは、セックス自体はいたって元気。普通にバンバンやっているのに子供ができないから悩んでいる人たちだ。
岡田教授が集計した60歳以上の男性患者12例(04年−08年までに受診)でみると、最高齢は72歳男性と49歳女性の初婚カップル。年の差カップルでは69歳男性と35歳女性の再婚のケースなどがある。
12例中の妊娠成功例は4例。61歳男性と35歳女性、67歳男性と39歳女性の2例は“人工授精”で、61歳男性と35歳女性、69歳男性と39歳女性の2例は“顕微授精”で成功している。
妊娠のカギを握るのは、女性の場合には卵子の状態と子宮の着床がうまくいくかどうかだ。40歳を超すと受精はするが流産が多く、妊娠率が極端に低下するという。
男性の場合、加齢が真っ先に影響するのは精子の運動率。妊娠には運動率が50%以上必要で、濃度は1cc中に最低2000万匹、精液量は1回の発射に2cc以上は必要といわれている。
では、加齢で劣化した精子の質を復活させる何かいい方法はあるのか。
「治療では漢方やコエンザイムQ10、ビタミン剤などが用いられるが、実際のところ特効薬はない。結局、最終的に顕微授精で成功しなければ打つ手はありません」(岡田教授)
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